Sound for Everywhere

音楽ライターではない、全くのCalm目線/音楽愛でアルバムや楽曲を語るコーナー。
頭で理解する資料的な文章ではなく、心で、魂で感じる文章を信条としてます。

PREV NEWEST NEXT

2009.08.11 Tue

S4E-010

小谷美紗子

Adore

Hip Land Music

歌もののヒットの条件として、分かりやすく共感できるような歌詞というのがあると思う。
しかし万人に受け入れてもらう為には、それこそ水で薄めたような、普通の言葉で語らなくてはならない。

ヒットソングが名曲だとは一切思わない。
本物はその中にわずかしか存在しないのだから。

小谷美紗子が書く歌詞、描く世界はストレートで強烈。
ときに心に大きな衝撃を与えるかもしれない。
普通の会話で何でもストレートに、思ったことを話すというのはとても危険な行為だけど、こういった歌詞に関しては、聴く聴かないの選択の余地があるのだから、それはアーティストの自由だと思う。
自由とはこういった場合に使うと、とても有効的だし、気持ちがストレートに伝わってくる。

そんな強烈でストレートな歌詞を優しく包むのは、極玉のメロディーと彼女の切ない歌声。
そしてピアノの響きや、彼女を静かにサポートするメンバーの音だ。

日本にもこういったアーティストが沢山いた。
そして10年先、20年先というタームで真っ当に評価されるのが今までの流れ。
彼女にはそんな歴史を打ち崩して欲しい。

特におすすめなのは彼女自身のピアノ。
大好きなジョニ・ミッチェルを引き合いに出したくなるほどだ。

そしてアルバムはあっという間に終わる。
最後の「儚い紫陽花」でいつも涙。


今こういったシンガーソングライター然とした本物のアーティストが少なくなった。
メロはいいんだけどなとか、歌は上手いんだけどなとか、何かが欠けている人が多い。

シンガーソングライターはまずギター1本とかピアノ1台と歌で勝負出来なくては。
良い曲だねじゃなくて、うわ〜やられた(感動したってこと)が決め言葉かも。

まだバンドと完全に打ち解けてなくて、試行錯誤しながら作っているところも、初々しくて良い感じ。
このあとのアルバムでは、バンドと完全に息が合って、もっと自由だったり実験的だったりする楽曲が多くなるんだけど、個人的にはこのアルバムの壊れそうな感じが大好き。

シンガーソングライター扱いのロック〜ポップス棚に置いてあるアルバムだけど、個人的には魂を揺さぶるソウルミュージックに認定。

2009.07.14 Tue

S4E-009

Telefon Tel Aviv

Map of What is Effortless

Hefty

デビュー当初はエレクトロニカという今もって不思議なジャンルに入れられていた彼らだけど、このセカンドアルバムからは大きく変化した。

まぁ個人的にはエレクトロニカというところに分けられる典型的な音楽はあまり好きではなかった。
偶然性が大半を占める音と個性があまりない曲達。
ブライアン・イーノが提唱したアンビエントという言葉にピッタリな、環境や場所や状況の邪魔をしないという点では良かったけれど。
例えるなら、美術館や図書館、空港などで流れてる分には良いのかも。
あまり主張をされては困る芸術作品のBGMにはもってこいだろう。

勿論その中でも良いものは多く存在するんだけど、Maxやリアクターというソフトで誰でも簡単に作り出せるので、深みがない、ソウルがない音楽が多かった。

音楽に主張やソウルを求めない人たちには重宝されていたかも知れないが、せめて映像も一緒に添えて欲しいぐらい。
今でも世に残ってるアーティストはそれを実践していた人たちだけ。
初期衝動は大切だけど、薄い初期衝動の乱発は、音楽を駄目にしていってしまう。

話がかなりそれてしまったけど、彼らのファーストも簡易的にエレクトロニカに分類されていただけであって、それでも様々な音楽要素が入り込んでいた。

しかしこのアルバムからは大きく変化した。

まずヴォーカル曲が増えたこと。生楽器が増えたこと。
そして何と言っても、心打つ切ないソウルが込められたこと。

変化はサウンド面でも表れている。
世の中、デジタル録音/ミックス時代に突入してかなり経つが、その中でもこのアルバムは圧倒的な高音質。
デジタルとアナログが良い割合でミックスされた素晴らしいサウンド。
デジタルのみだと音というのは身体を通過してしまう。
しかし今の時代、デジタルは避けて通れない、というか主流。
このアルバムは今の時代どう音作りをしていけば良いのかの指標になるかもしれない。

しかしその音の良さは結局彼らのソウルを伝える手段でしかない。
アメリカ出身、アメリカのレーベルから出ているにも関わらず、この切なさはヨーロッパ的。
いや、我々の心をも打つアジア的な、日本的なワビサビ感さえ漂わせる。

切ないグッドメロディ、ワビサビを感じるアレンジ、それを伝える音作り。
そして彼らのソウルが伝わる空気感。

こんなアルバムに出会えたことはとても感謝している。

このクオリティーのアルバムにはそうそう出会えないのだから。
ましてや現代においてはなおさらだ。

残念なことに、今年メンバーのCharlie Cooperが急逝。
これまた新しい素晴らしいアルバムをリリースしたばっかりなのに。
心からご冥福をお祈りします。

2009.06.22 Mon

S4E-008

Butterfly Child

Onomatopoeia

Rough Trade

Calmの音を説明するのは困難だ。
世にはびこる典型的なクラス分けには対応しない。
しかしある意味それは誇りにさえ思う。
レコード(CD)屋や雑誌などで、どこのコーナーに分けられようが関係ない。

自分が作り出す音楽同様、ジャンル分けが難しい音楽というのは大好きだ。

Rough Tradeとう、一世を風靡したレーベルの後期に発売されたこのアルバムは、その素晴らしい内容とは裏腹に、評価やセールスという面ではあまり恵まれなかったと思う。

発売はNew Wave期から本当に色んな種類の音楽をリリースしてきた、イギリスを代表するインディーレーベルのRough Trade。
そのRough Tradeの代表アーティスト、The Smithsを代表するようなギターサウンドではないこのButterfly Childをリリースしたのも、ある意味納得できる。

肌触りはロック的なのかもしれないけど、どうもストレートではない。
とてもふにゃふにゃしてる。
録音やミックス等の音の良さが、そのふにゃふにゃさをより一層高めている。

メロディなどは典型的なNWメロ。ここはRough Trade直系かもしれない。
決してヒットチャートの上位に入るような大衆的メロディーではないけれど、心を打つグッドメロディ。
ソフトロック的とでも言えるかも。

打ち込みダンスミュージック以降、音楽形態はもの凄く変わった。
これはそのニュージェネレーション創世記の代表アルバムだと言っても過言ではないと思う。

NW、ソフトロック、打ち込み系ダンスミュージック、ジャズ、DUB等々、キーワードを挙げればきりがないけれど、これはストレートはないちょっと変態野郎が作った美しいアルバム。

「Lunar Eclipse」や「Young Virgins Call for Mutiny」などからお試しあれ。

2009.05.15 Fri

S4E-007

Prince

Sign O the Times

Paisley Park Records

プリンス殿下を始めて知ったのは、初期名作中の名作『1999』。
どことなく変態、どことなくポップ、どことなくファンキーで、どことなくヤバい。
多感な中学生には刺激が強すぎたかもしれない。

名作『Purple Rain』により一般的に大ブレイクしても、マイケル・ジャクソンと違って音楽(と何故か映画)だけに没頭。

『Lovesexy』までは怒濤の名盤ラッシュ。
この時期の全てのアルバムは必聴だろう。

その中でもまずはこのアルバムから紹介。

頂点に登り詰めたあとに、色んな体験をして、きっと音楽の良い部分と駄目な部分(音楽というよりは音楽産業)を見たんだろう。
(売れれば売れるほど、名前が広まれば広まるほど、栄光とは別に批難中傷の数は増えたに違いない。)

ある意味絶望をも体験し、自分自身をもう一度見つめ直した結果出てきたアルバムがこれ。

絶好調だったバンドでさえも一時突き放して、初期の自分に問いかける、とてもインナースペースな内容。

まずはシングルにもなったタイトルチューン。
今までのシングルとは明らかに違う内省的なサウンド。
当時のマストアイテム、PVでさえもシンプルかつ内省的に。

一体彼にどんなことが起こったんだろう。
またどんなことを考えていたんだろう。


少し脱線するけど、相当数のアルバムなどをリリースしているアーティストを始めて知って、そのアーティストの作品を聴き始める場合、皆さんはどうしますか?
ファーストから聴く人、ベスト盤から聴く人、最新作から聴く人、はたまた名盤と言われるものから聴く人などなど、、、。
聴き方は人それぞれですよね。

さてこの『Sign O the Times』に限っては、この前のアルバムまではきっちりと聴いてからチャレンジしたほうが、よりこのアルバムの良さ、もしくはプリンスの苦悩なんかが伝わるかもしれません。


プリンスは外見や態度の問題で、特に女性からは人気ないですよね。
人気ないというかパスしがちですよね。

確かに行き過ぎというか、音楽以外のセンスが理解出来ないことも多々ありますが、とにかく音楽に関しては最高です。
まぁちょっと行き過ぎた歌詞の問題とか、歌い方など賛否両論だとは思いますが。

歌い方や声質などでちょっとフォーカスが緩んでしまいがちですが、彼の書くメロディーやアレンジなどは最高としか言いようがないです。
恐らく正統派歌手が歌えばその良さがより伝わるはずですが、、、。

タイトル曲や「The Cross」など、スピリチュアルで内政的な最高楽曲が個人的には好みですが、それとは別にポップでグッドメロディの楽曲も多数収録。

この辺りから金回りが良くなったのか、マイケルと違ってスタジオや機材にお金をつぎ込んだ形跡あり。
それぐらい音が粒だってます。


このアルバムから入って、ファーストに戻って一から聴き直して、名盤時期のラストを飾る『Lovesexy』まで一気に聴いてみてはいかがでしょうか。

2009.04.17 Fri

S4E-006

Keith jarrett

The Koln Concert

ECM

まずキース・ジャレットを嫌いな人はいないと思う。
勿論作品に関しては好み別れるところだけど、それでもこの人の音楽は皆好きだと思うし、そうあって欲しい。

名盤/名演多々ありますが、まずはこのアルバムから。

ECMがピンチになるとキースがツアーをすると言われたぐらい、キースのコンサートは大盛況だったらしい。
特にこのソロコンサート期は、演者や送り手、そして受けてまでもが大満足の時代だったんだろうな。

キースには独特の感性がある。
ジャズの要素にクラシックの様式美を持ち込んで時代を作りあげた。
色んな意味において、いまだに彼の域に達したものはいないだろう。

ある意味その凄さが結実したのは、誰の制約も受けずに、そして自分の中にも、演奏する曲にも制約を設けずに演奏したこのソロコンサート期だろう。
やる曲でさえ決まったなかった、いや作ってなかった、その場の気持ちで即興で演奏するジャズ。
そしてフレーズはクラシカル。

なのに何故こんなバリバリの日本人にさえも感動を与えてくれるのだろう。
きっと演奏の中に魂 - ソウルが宿っているんだろう。

そしてレーベルは何と言ってもあのECM。
絶対に真似出来ない独特の空気感と音質。
ECMの音を聴けば北欧の空気を吸っている、浴びているような気になります。

曲の終わりには必ず長〜い拍手。
そして最後の曲の終わりには、賞賛を讃える信じられないぐらい長〜〜〜〜い拍手と、アンコールを求める拍手。
これを収録しているところも憎らしい。

ライブ活動を行っている自分にとってはうらやましいかぎりだ。
自分のライブ終わりにこんな拍手をもらったら、きっと涙止まらないだろうな。
きっと将来、いや必ずこんな感動的なライブをやってみたい。

PREV NEWEST NEXT

SCROLL UP